助成金は“貰えるお金”ではありません。

社労士コラム

〜法定書類の整備があってこそ、従業員のための投資が報われる〜

「助成金って、もらえるんですよね?」「ウチの会社でも簡単にもらえるって聞いたけど…」

社会保険労務士として事業主の皆さまとお話をしていると、こうした“助成金=もらえるお金”というイメージを持っておられる方によくお会いします。確かに、厚生労働省が提供する各種助成金は、一定の条件を満たせば「返済不要」で企業に支給される、貴重な支援制度です。

しかしその一方で、申請のためには「法定帳簿」「就業規則」「雇用契約書」といった労務に関する基本的な整備が求められ、場合によっては数ヶ月にわたる準備期間も必要となります。

今回は、「助成金の本質」や「よくある誤解」、そして「申請を成功させるために企業が整えておくべき基盤」について、解説していきます。
制度して助成金がある以上、活用しないのはとてもモッタイナイです!
しっかりと法定の下地を整備すれば継続的に申請ができる助成金もあります。
助成金の概念や必要な準備などを簡単に説明させていただきます。


1 そもそも助成金とは何か?

助成金とは、厚生労働省を中心とする行政機関が、雇用の維持や職場環境の改善、働き方改革、スキルアップの推進などを目的として、一定の要件を満たした企業に対して支給する「返済不要の公的資金」です。

主な種類には以下のようなものがあります。

  • キャリアアップ助成金:非正規雇用者の正社員化などを支援
  • 人材開発支援助成金:従業員の職業訓練費用を助成
  • 両立支援等助成金:育児・介護と仕事の両立を支援
  • 働き方改革推進支援助成金:労働時間の適正化やテレワーク導入を支援

基本的には国の政策方針とリンクしており、その時々で企業が取り組むべき「理想的な労務管理」の金銭的な支援ができるように設計されています。つまり、助成金とは単なる“お金の支給”ではなく、“国の労働政策の方向性に沿った企業努力への後押し”なのです。


2 助成金の「あるあるな誤解」と落とし穴

(1)「申請すればもらえる」わけではない

助成金は“制度の条件に該当すれば必ずもらえる”と思われがちですが、実際は書類の不備や労務体制の未整備により、不支給になるケースも少なくありません。

たとえば…

  • 雇用契約書が整っていない(更新日や契約期間の記載が不適切)
  • 出勤簿や賃金台帳が未整備または不一致
  • 就業規則が未提出または法令に反している
  • 社会保険や労働保険に未加入
  • 時間外労働に関する協定(36協定)の未届出

こうした不備があると、要件を満たしているように見えても“審査通過”には至りません。

(2)「後付け」で申請できないケースが多い

助成金の多くは、「取り組み前の計画申請」が必要です。たとえばキャリアアップ助成金の正社員化コースでは、「正社員登用をする前」に“キャリアアップ計画書”を提出していなければ、支給されません。

このため、「すでに正社員にしたので助成金もらえますか?」というお問い合わせには、「残念ながら今回は対象外です」とお答えせざるを得ないことも…。


3 助成金申請に必要な“土台づくり”とは?

助成金の活用には、まず会社の「労務管理体制」が適正に整備されていることが前提となります。以下のような書類・制度がしっかり整っていることが求められます。

(1) 雇用契約書の整備

  • 契約期間、就業時間、賃金などの基本事項が記載されていること
  • 更新の有無や条件が明確であること

(2)労働条件通知書(パートタイマー含む)

  • 法定記載事項(労働時間・休日・賃金・社会保険など)の明記

(3) 出勤簿・賃金台帳

  • 手書き・Excel管理であっても、「実態を正確に反映していること」が重要
  • 労働時間数と給与が連動していなければ不整合と見なされます

(4) 就業規則の整備・届出

  • 常時10人以上の労働者がいる場合は届け出義務あり
  • 助成金申請時には「就業規則のコピー提出」が求められることも

(5) 社会保険・労働保険への適正加入

  • 助成金の対象者が法定保険に適切に加入していないと不支給になります

これらはすべて“法令で義務付けられている基本事項”です。助成金の前に、まずは「会社として当然備えるべき基盤」なのです。


4 助成金は“従業員のための投資”に対する後押し

助成金の本質は、企業が従業員のために行う取り組みに対して支給されるものです。

たとえば、

  • 非正規社員を正社員化する
  • 働きながら資格取得できるよう訓練制度をつくる
  • 育児中の社員が柔軟に働ける体制を整える

これらはすべて“従業員ファースト”の経営姿勢によるもの。そして国が「そのような企業姿勢を後押ししたい」として支給するのが助成金なのです。

つまり助成金は、事業主の利益確保のためのお金ではなく、“従業員の環境改善”という社会的な意義を伴った支出への支援なのです。


5 社労士が伴走支援する意味とは?

助成金は制度の数が多く、しかも要件が複雑で頻繁に改正されます。そのため、企業内で完結させるのは容易ではありません。

社会保険労務士は、助成金の申請代行が独占業務として認められています。
申請の代行だけではなく

  • 最新の制度情報の提供
  • 計画届や支給申請書の作成支援
  • 就業規則や雇用契約書の整備
  • 提出後のフォローや不支給リスクの回避

など、助成金制度を「継続的に活用するための仕組み」づくりをトータルでサポートしています。

また、企業の状況に応じた「どの助成金が使えるか」の見極めから、「次の取り組みへのつながり」までを見据えたご提案ができるのも社労士の強みです。


6 まとめ

「助成金がほしい」という気持ちは自然なものです。
私も目の前にもらえるお金がぶら下がっていたら飛びつくと思います。笑
ですが、助成金は単なる“お金”ではなく、従業員のために行う健全な取り組みへのご褒美だと考えるべきです。

まずは、法定帳簿・雇用契約・就業規則などの基本整備を行い、「いつでも申請できる体制」を整えること。それが助成金活用の第一歩です。

そして、その体制づくりは、社員にとっても安心して就業できる職場環境を生み、
結果的にモチベーションUPや売り上げUPとして会社に返ってきます!

助成金は、結果としてもらえるものである。

その認識を持って、企業の未来と従業員の成長をともに描く一歩を踏み出しましょう。

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