
目次
はじめに
2021年の調査によれば、日本のフリーランス人口は約1,577万人と報告されています。
内閣府の分析では、1985年から2015年にかけて自営業主全体は減少傾向にあるものの、「雇用的自営業(特定の発注者に依存する自営業主)」の人口は増加していると報告されています。
つまりこれまでのような自身のサービスを世の中へ提供する完全自営型(事業を起こす/士業など)の自営業主は減少しているものの、代わりに企業側から業務の受注をして作業をするフリーランス型の自営業者が増加をしており、ますます働き方の自由度が高まっております。
一方で発注先からの不当な発注停止や報酬金の未払い問題など多くの問題が発生していることも事実です。
そんな中、2024年11月に適正な取引環境を整備するために制定された「フリーランス・事業者間取引適正化等法」が施行されました。
この法律は、フリーランスや個人事業主を守りつつ、事業者との公正な取引を促進することを目的として策定・法整備がなされております。
本記事では、法律の概要から企業が準備すべき対策、個人事業者向けの周知内容までしく解説します。
1. フリーランス・事業者間取引適正化等法とは?
1.1 法律の背景
近年、働き方改革やテクノロジーの進展に伴い、フリーランスとして働く人が増加しています。しかし、不公正な契約条件や報酬の遅延支払いといったトラブルが多発しており、法的保護が不十分でした。この法律は、そのような課題に対応し、以下の目的を持っています。
- フリーランスの取引環境改善
- 事業者間の公正な競争の促進
- フリーランスの権利保護
1.2 対象範囲
この法律が適用される対象を分かりやすく整理してみました↓
- フリーランス:個人で事業を行い、かつ、従業員のいないこと事業者。※注1
- 事業者:フリーランスと取引を行う企業、または法人格を有する団体。
フリーランス法は、その適用対象となるフリーランスを「特定受託事業者」という語で表現しており(法2条1項)、その定義は以下のとおりです。
①「業務委託」の相手方である「事業者」の法人であって、1名の代表者以外に役員がおらず、かつ、「従業員」を使用しないもの(同項2号)
②「業務委託」の相手方である「事業者」の個人であって、「従業員」を使用しないもの(法2条1項1号)
明確な区分についてはかなり細かい認識の確認が必要(+行政判断)ですがざっくりと従業員を雇わない個人事業・法人だとイメージして頂くと良いでしょう。
2. 法律の主な内容
今回の法整備によってフリーランスへ業務発注をする企業側は、守るべき7つの義務を負うこととなります。
義務事項 | 具体的な内容 |
①書⾯等による取引条件の明⽰ | 業務委託をした場合、書⾯等により、直ちに、次の取引条件を明⽰すること ●業務の内容 ●報酬の額 ●⽀払期⽇ ●発注事業者・フリーランスの名称 ●業務委託をした⽇ ●給付を受領/役務提供を受ける⽇ ●給付を受領/役務提供を受ける場所 ●(検査を⾏う場合)検査完了⽇ ●(現⾦以外の⽅法で⽀払う場合)報酬の⽀払⽅法に関する 必要事項」 |
②報酬⽀払期⽇の設定・期⽇内の⽀払 | 発注した物品等を受け取った⽇から数えて60⽇以内のできる限り早い⽇に報酬⽀払期⽇を設定し、期⽇内に報酬を⽀払うこと |
③禁⽌⾏為 | フリーランスに対し、1か⽉以上の業務委託をした場合、 次の7つの⾏為をしてはならないこと ●受領拒否 ●報酬の減額 ●返品 ●買いたたき ●購⼊・利⽤強制 ●不当な経済上の利益の提供要請 ●不当な給付内容の変更・やり直し |
④募集情報の的確表⽰ | 広告などにフリーランスの募集に関する情報を掲載する際に、 ●虚偽の表⽰や誤解を与える表⽰をしてはならないこと ●内容を正確かつ最新のものに保たなければならないこと |
⑤育児介護等と業務の両⽴に対する配慮 | 6か⽉以上の業務委託について、フリーランスが育児や介護などと業務を両⽴できる よう、フリーランスの申出に応じて必要な配慮をしなければならないこと (例) ・「⼦の急病により予定していた作業時間の確保が難しくなった ため、納期を短期間繰り下げたい」との申出に対し、納期を変更すること ・「介護のために特定の曜⽇についてはオンラインで就業したい」との申出に対し、⼀部業務をオンラインに切り替えられるよう調整すること など ※やむを得ず必要な配慮を⾏うことができない場合には、 配慮を⾏うことができない理由について説明することが必要。 |
⑥ハラスメント対策に係る体制整備 | フリーランスに対するハラスメント⾏為に関し、次の措置を講じること ①ハラスメントを⾏ってはならない旨の⽅針の明確化、 ⽅針の周知・啓発 ②相談や苦情に適切に対応するために必要な体制の整備 ③ハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応 など |
⑦中途解除等の事前予告・理由開⽰ | 6か⽉以上の業務委託を中途解除したり、更新しないこととしたりする場合は、 ・原則として30⽇前までに予告しなければならないこと ・予告の⽇から解除⽇までにフリーランスから理由の開⽰の請求があった場合には理由の開⽰を⾏わなければならないこと |
2.1 契約書面の交付義務
事業者は、フリーランスとの契約に際して以下の情報を明記した契約書面を交付する義務があります。
- 業務の内容
- 報酬金額とその支払い方法
- 契約期間
- 契約解除の条件
2.2 報酬支払いの適正化
報酬の支払い遅延や減額を防止するため、報酬は契約で定めた期日内に支払わなければなりません。
2.3 相談窓口の設置
フリーランスが安心して相談できるよう、政府や自治体が専用の相談窓口を設置しています。これにより、取引に関するトラブルの早期解決が可能です。
3. 企業が対応すべき準備と対策
3.1 契約プロセスの見直し
フリーランスに発注する企業としても契約プロセスの見直しが急務となります。
3.1.1 契約書の整備
- 法律に基づいた契約書の作成
- 業務内容や報酬支払い条件を明確に記載
3.1.2 社内研修の実施
- フリーランスとの適正な取引について社内での意識向上
- 契約内容や法律の遵守を徹底
3.2 報酬支払いの管理
報酬遅延を防ぐため、次の対策が必要です。
- 支払いスケジュールの管理
- 契約条件に基づく迅速な支払い
3.3 トラブル防止のためのコミュニケーション
フリーランスとの円滑な取引を維持するため、定期的なコミュニケーションを図り、トラブルの未然防止を心がけましょう。
4. フリーランスの方向け:業務を受注した際の確認事項!
4.1 契約内容の確認
個人事業者は、契約書を受け取った際に以下を確認してください。
- 業務内容や条件が具体的に記載されているか
- 報酬支払いの期日や方法が明確か
4.2 トラブル時の相談窓口
問題が発生した場合は、以下の窓口を利用してください。
- 公正取引委員会の相談窓口
- 中小企業庁のサポート窓口
4.3 自己防衛のための準備
フリーランスとして活動する上で、次の準備が重要です。
- 契約内容を記録する
- 法律に関する基本的な知識を習得する
- 必要に応じて専門家に相談する
5. 社労士への相談のすすめ
5.1 社労士が提供するサポート
フリーランスや企業双方にとって、社労士は取引適正化のための重要なパートナーです。
- 契約書の作成支援:法律に準拠した契約書の作成
- トラブル解決の助言:取引上のトラブルを迅速に解決
- 取引慣行の見直し支援:企業の取引慣行を改善し、公正な取引を実現
5.2 社労士に相談するメリット
- 最新の法律知識を活用できる
- トラブルの未然防止が可能
- 業務効率化を図ることができる
まとめ
フリーランス・事業者間取引適正化等法は、フリーランスの権利保護と公正な取引の実現を目的とした重要な法律です。企業は適正な契約手続きや報酬支払いを徹底し、フリーランスは法律を理解しつつ自己防衛策を講じることが求められます。
社労士を活用することで、法律対応やトラブル解決をスムーズに進めることが可能です。本法律に関する詳細なご相談は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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